「海洋教育」は現在、十分に推進されているでしょうか。
時代がどれほど推移しても、人類を支える「海の恵み」の重要さは変わることはありません。とくに島国である日本の場合、沿岸部・内陸部にかかわらず、海の環境変化が日常生活へもたらす間接的かつ直接的な影響の大きさは、計り知れません。世界的な自然環境の変動が刻々と伝えられる現代、ますます冷静で実証的な知見と、それに基づいた教育が必要でしょう。海への関心を持続し、海を正しく理解して、海と私たちとの共生を考え続けるためにも、「海洋教育」では、広い視野に立った認識と研究が必要ではないでしょうか。
そこで本書は、まず1940年代後半にさかのぼり、第二次世界大戦終戦直後の理科教育に注目しました。GHQ占領下の当時の日本において、理科教育は、民主主義の基盤としての実証主義を学ぶのに最適な手段のひとつとして奨励されました。その際、日本列島を囲む「海洋」は、物理学・生物学・化学・地学などの複合的視点に立って、実験や観察を通して科学的精神を養う経験の場として、まことに格好の対象だったのです。
第1章では、終戦から間もない時代に、小学校と中学校の「文部省著作教科書」において、海洋教育教材がどのように登場していたのかを検討しています。続く第2章では、民間教科書会社による小学校の検定済教科書を検証し、第3章では、同じく民間教科書会社による中学校の検定済教科書を検証します。これらの章では、それぞれの教科書を図版で紹介し、その意欲的で豊かな「教育教材」を確認することで、当時の積極的な「海洋教育」の取組みを検証していきます。
こうした「海洋教育」の取組みは、戦後70年の歴史の中で変化していきます。
第4章では、小学校学習指導要領の変遷をたどり、第5章では、中学校学習指導要領の変遷をたどることで、海洋教育教材がどのように取り上げられていったのか、また、海洋教育教材はなぜ、理科教育の中で減少していくことになったのかを明らかにしていきます。
本書は、このようにまさに《原点》を検証し、その変遷を検討することで、いま求められる「海洋教育の姿」を考える手がかりを提示します。
巻末には、1947年刊行の貴重な「文部省著作教科書」である『海をどのように利用しているか』を全文掲載しました。
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