ペスタロッチーの研究は数多くあるが、生活陶冶に関する研究は意外なほど少ない。まして、生活陶冶を幼児教育の視点から解釈した体系的な研究はほとんど見当たらない。人間の生涯を貫く教育の原理として生活陶冶論を展開する、つまり生活陶冶思想に基づく幼児教育論は、人間の全生涯の教育のあり方をと基本的に方向性を一にするものである。彼の生活陶冶論は、決して現代の幼児教育にとって古くはない。むしろ現代に合って、リアルな様々な教育課題に対して、多くの寄与するものを有している。彼は幼児教育を、現実生活から隔絶された空間で行われるものとして考えていたのではないからである。
本書は、複雑に変化する現実の教育に対して、ペスタロッチーが投げかけているものは何かを追求し、彼の視点に立って、その意味する内容に素直に耳を傾け、真摯に追及したペスタロッチー論である。