NHK局員時代にオッペンハイマーを取材した筆者の自分史とエッセイ集。
〈あとがきより〉本書は第一部「自分史」と第二部エッセイ集からなる。
これまで放送や視聴覚教育メディアの歴史は紀要などに書いてきた。私の幼少期からみるとメディアの変化は急速で、人々の生活も大いに変わった。今後もより急速に変化してゆくことだろう。教育界も軍国主義から民主主義教育に基準を変え、教授方法も黒板とチョークから、学童単位に電子機器を持たせるようになった。読書人口は半減し、幼児もスマホに時間を費やすという。
蟹工船や移民の歴史を調べ、一般人の生活記録は残らないことに気づいた。欧米に比べて日本は天災が多く、住宅事情が貧弱なのも一因だろう。そのため過去の教訓は蓄積されない。そこで素描だが、九十歳を迎え、テレビメディアの世界と、教育(研究、開発)の世界を結んで過ごした半生を第一部で顧みてみた。
書籍は読むだけでなく、ゆかりの土地をたずね、その著者に手紙を出して尋ねると、裏話などさらに興味深い事実を学ぶ。
第二部は、缶詰びん詰レトルト食品協会の『缶詰時報』に「琴川渉捕物控」として二〇一七年から毎月連載した六十編から、そうした実例で自分史を補うものを十数編選んだ。
読み返してみると、本当に見えざる手に導かれて、進学、就職、転職の道をたどったことが分かり、感謝に堪えない。
多くの恩師、先輩、友人、家族のおかげで、島から島へと「ウサミ丸」は航海してきた。笠戸丸を調べるうちに、思いがけないご縁で故地をつぎつぎに訪問できた時から感じていたが、今は確かな導き手があることが確信になっている。
車いす生活の不便、難聴、器具の摩擦による劇痛に苦しむ日々もあるが、終りの日まで讃美歌の「やすかれ、わがこころよ、主イエスはともにいます」〈曲はフィンランド国歌〉を心に念じつつ生きてゆこう。