『戦争論』の第1版と第2版

 『戦争論』は未完のまま著者が逝去したので、夫人が遺稿を整理して1832~3年に出版しました(第1版)。その後52年に夫人の弟・ブリュール伯爵が、誤りと思われる点を修正して、第2版を出し、これが読まれてきました(『語録』78頁参照)。
 ただ、書換えもされたようで、戦後、看過できない誤りが指摘されました。政軍関係にからむ本質的な問題です。問題の箇所の前に、分り易い箇所を見ておきます。

 「戦争が政治から始められるにしても、始まってしまうと政治から完全に独立したものになり、政治は押し退けられ、戦争独自の法則に従うようになると〔考えられやすい〕。……だが事実はそうでない。そう考えるのは根本的に間違っている」(同52頁)。

 問題の箇所は次の部分で、これが正しいとされています。――「戦争を政治の意図に完全に合致させ、また政治がその手段たる戦争に無理な要求を押し付けたりしてはならないとしたら、どうすべきか。政治家と軍人の要素が同一人物の内に兼備されていればよいが、そうでない場合、採るべき手段はただ一つしかない。最高司令官を内閣の一員に加えるほかない。それによって内閣は、司令官が下す最も重要な〔軍事的な〕決定に関与できるようになる」。

 第2版ではどうされたのか? 直訳します。司令官を内閣の一員にすることで「最高司令官は、極めて重要な時機に、内閣の審議と決定に関与するようになる」と。

 クラウゼヴィッツの主張は、内閣の一員にすると、内閣が軍事的決定に関与できるということでして、軍人を政治的な決定に参加させるべきだ、ということではありませんから、これは改竄(かいざん)と言われるのです。急いだので少し難しかったでしょうか?

「クラウゼヴィッツ語録」編訳者:加藤 秀治郎