方法主義は「メソジスト派」?
『戦争論』第二篇第四章は、多くの訳書では「方法主義」というタイトルになっています。ドイツ語の原題は Methodism とあり、独和辞典を引くと「メソジスト派(の教義)」などとあります。クラウゼヴィッツの時代にどう使われていたのか分かりませんが、『戦争論』での用法が宗教的な意味ではないのは明白です。
読んでいくと意味は分かってくるのですが、ただ日本語で「方法主義」と訳されてもピンと来ません。何か巧い訳語が欲しいところです。こういう所を何か工夫をするのでないと、新訳を出す意味が乏しくなりますからね。
苦し紛れに「方法準則主義」「方法重視主義」などとしましたが、満足はしていません。ヒントになったのは兵頭二十八さんの『戦争論――隣の大国をどう斬り伏せるか』(PHP研究所)です。戦争論の「本文の趣旨要略」を試みた書物で、翻訳ではありませんが、注目に値する指摘が多く含まれており、兵頭氏は「方法」に「マニュアル」との訳語をつけています。
「方法主義」とは、「マニュアル重視主義」のことだというのでして、クラウゼヴィッツの考えはこの訳語でもって簡単に説明できます。戦争には《摩擦》がつきもので、《戦場の霧》の中でマニュアル通りに行動させる司令官は愚かであり、司令官は《軍事的天才》でなければならない。ただ、下級の指揮官にマニュアルが必要なのはその通りで、そのレベルでは「方法準拠主義」もあってよろしい、というのです。
兵頭訳「マニュアル」をそのまま採用することも考えましたが、すこし大胆すぎるような気もして、「方法準則主義」「方法重視主義」にとどめました。少し大人しすぎたでしたでしょうか?
「クラウゼヴィッツ語録」編訳者:加藤 秀治郎